環境保全と経営の両立を目指すシャボン玉石けん株式会社。同社は、SDGsの登場をきっかけに、脱炭素につながる取り組みを加速させています。再エネ100%への切り替えやモーダルシフトなど、具体的な取り組みとその効果について、お話を伺いました。

シャボン玉石けん株式会社 工場外観(提供:シャボン玉石けん株式会社)

ーー 貴社では、SDGsやGXへの取り組みについて、どのような方針で臨まれているのでしょうか?

当社は、企業理念である「健康な体ときれいな水を守る。」を実践するため、本業に真摯に取り組むことを大前提としています。それに加え、周辺領域であるエネルギー管理や働きやすい環境づくりなどにも注力し、環境保全と経営の両立を目指しています。

ーー SDGsの登場は事業にどのような影響を与えましたか?

SDGsが登場したことで、自社のこれまでの取り組みを整理し、2021年に「サステナビリティ中期計画」を策定しました。5つの重要課題と17の取り組みテーマ、2030年目標を制定。重要課題の1つは「地球環境の保全」です。その中の「気候変動・エネルギー問題への対応」というテーマで、再エネ100%への切り替えやモーダルシフトなど、脱炭素につながる取り組みを目標に掲げています。

また、SDGsやサステナビリティの観点から自社の事業を見直した結果、環境配慮型の包装資材の活用が課題であることが明らかになりました。石けんを製造・販売する当社の製品は、水回りで使用されるため、プラスチック包装が多くなりがちです。

しかし、無添加石けんという特性上、適合する環境配慮型の包装資材の調達は難しい部分ですが、積極的に代替素材を探し、テストを重ねながら、できるところから導入を進めています。また、プラスチックを有効活用するため、使用済みボトルの水平リサイクル実証実験にも取り組んでいます。

使用済みボトルの水平リサイクル実証実験(提供:シャボン玉石けん株式会社)

ーー 現在、どのようなGX関連の取り組みを推進されていますか?

大きく分けて4つの取り組みを進めています。1つ目は、2022年6月に実現した電力の再エネ100%化です。2つ目は、関東向けの製品輸送をトラックからコンテナ輸送に切り替えるモーダルシフトの実施です。3つ目は、北九州市立八幡病院との共同プロジェクトで、使用済みハンドソープのボトル回収・水平リサイクルの実証実験を行っています。4つ目は、北九州市の熱マネジメント実証実験への参加で、石けん製造に使用するガスボイラーの代替熱源の可能性を探っています。

当社では、CO2削減に向けて優先的に取り組むべき分野として、再エネ活用、モーダルシフト、廃棄物削減の3点を特定しており、2030年目標に向けて取り組んでいます。

ーー GXの推進において、社内の理解と協力を得るための工夫を教えてください。

GXを推進するには、社員一人ひとりの理解と協力が不可欠です。まずはサステナビリティへの理解浸透が必要だと考えています。サステナビリティ中期計画を策定した際、経営層から直接説明することで全社的な理解を促しています。全社員を対象に10人程度のグループを作り、経営層自ら丁寧に説明を行い、その場で疑問点を直接質問できるミーティングを行いました。

また、サステナビリティに特化した社内報の発行にも力を入れています。社内報はいかにわかりやすく短く、楽しく最後まで読んでもらえるかというところを意識して作成し、サステナビリティへの理解浸透に取り組んでいます。

GXの理解だけが目的ではなく、さまざまな研修を行っています。

ーー GXとDXの関係性について、どのようにお考えですか?

GXの推進には、DXが不可欠だと考えています。当社では、2021年にDXの取り組みを開始し、2022年3月には専門部署を立ち上げました。現在は、工場のデータを一元的に集約・データベース化し、活用できる仕組みづくりに注力しています。

将来的には、DXで得られたデータを活用し、省エネ活動の精度を高めたり、CO2排出量の可視化を進めたりすることで、より効果的なGXを実現できると考えています。

当社の経験からも、行政の求めるGXの取り組みを進めていくと、自然とDXとの連携が深まっていくことがわかります。例えば、CO2排出量の算出には、DXによるデータ収集と分析が欠かせません。GXとDXは、密接に関連しているのです。

シャボン玉石けん株式会社 工場(提供:シャボン玉石けん株式会社)

ーー DXを推進する上での課題と、その克服方法を教えてください。

DXを推進する上での課題は、大きく2つあります。1つは、旧式設備からのデータ収集です。当社の工場には、導入から37年が経過した設備もあり、それらはデジタル化を前提とした設計ではありません。そのため、データ収集が難しい場合があります。こうした設備に対しては、できる範囲でデータを取得し、分析に活用しています。

もう1つの課題は、IT人材不足です。当社では、現場のメンバーのITリテラシーを底上げする方針を取っています。DX推進チームが中心となり、勉強会の開催や外部セミナーへの参加を促すことで、社内のIT人材を着実に増やしています。

また、実践的な学びを重視し、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を大切にしています。できないことは、自分で調べたり、外部に教えを請うたりしながら、スキルを高めています。こうした取り組みの結果、1年間でDXを進められる領域が大きく広がりました。

DX人材の育成では、自発的な学びを引き出すことも重要です。実際にDXの成果物を見せ、「これならできそう」と感じてもらうことで、自ら学ぼうとする意欲を高めることができます。そこから、一緒に勉強していく体制を作ることで、組織全体のDX力を引き上げていくのです。

当社は、DXの推進によって、GXをより高度化できると信じています。デジタル技術を駆使しながら、環境課題解決に挑戦し続ける。それが、これからの時代に求められる企業の姿勢だと考えています。

ーー今後、 GXやDXの取り組みをどのように発信していきますか?

当社のGXやDXの取り組み事例について、工場見学などを通じて発信していきたいと考えています。工場見学の際は、訪問者の関心事に合わせて、説明の切り口を変えるなど、伝え方を工夫しています。業種を越えて、多くの企業の参考になるよう、できるだけ具体的な事例をお見せしたいと思います。

今後も、CO2削減や脱炭素につながる取り組みを継続的に推進し、人にも自然にもやさしい無添加石けんの普及を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

【まとめ】
脱炭素社会の実現に向けて、企業の果たす役割はますます大きくなっていく中で、同社の取り組みは、GXとDXが切り離せないものであることを示しています。デジタル技術を活用し、環境課題の解決につなげることが、これからの時代を生き抜くために求められていくのかもしれません。